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インタビュー2022年9月8日

トップインタビュー 第一工業製薬 山路直貴社長に聞く 「水」と「油」の仲を取り持つ京都の老舗

1909年創業の第一工業製薬(一工薬、4461・P)は、京都で113年培った技術と信頼をもとに、独自性の高い工業用薬剤を提供する化学の素材メーカーだ。日本の高度経済成長を支えた繊維産業と共に、石けんをはじめとする界面活性剤で成長を遂げた。昨今では、電子材料やライフサイエンスなどに注力、私たちの生活に欠かせない素材をあらゆる産業に提供する。蚕(かいこ)の繭(まゆ)の糸をほぐす薬剤を作って産業革命に貢献した同社が、「人生100年時代」を迎えて、再び蚕由来の健康ビジネスに参入した経緯などを、山路直貴社長(写真)に聞いた。

――「製薬」という名の化学の素材メーカー。

「当社には、界面活性剤、アメニティ、ウレタン材料、機能材料、電子デバイス、ライフサイエンスの6つの事業セグメントがある。創業当時から続く界面活性剤がベースとなり、保有技術は多岐にわたる。界面活性剤とは、本来は混ざりあわない、例えば水と油を混ぜ合わせる性質を持ち『石けん』が代表例だ。その他、テレビやスマートフォンのフィルム、リチウムイオン電池、塗料やボールペンのインクなど身近な製品にも使われる」

「砂糖から作る『シュガーエステル』という素材がある。人の口に入っても肌に触れても安全で、製造するのは世界で数社だ。ケーキのホイップクリームやコーヒーフレッシュの乳化剤などに使う食べられる界面活性剤だ。口紅をはじめ化粧品にも使われる」

「自動運転のセンサーや5G通信などで使う素材開発を進めており、需要拡大が期待できる。太陽光パネルに使用される導電性ペーストは、石化燃料を使用しない素材としてCO2削減など地球温暖化対策に一役買っている。また、リニア中央新幹線のトンネル掘削工事では、崩落防止に岩盤固結剤が採用されている」

――5カ年計画の進捗状況を教えてほしい。

「2025年3月期を最終年度とする中期経営計画『FELIZ(フェリス) 115(イチイチゴ)』では売上高850億円、営業利益100億円の目標を掲げている。前半の2年間は不採算事業を整理、利益のでる体質に改善を進めた。後半はさらに電子・IT、環境・エネルギー、ライフサイエンスの3分野へ経営資源を投入し事業拡大する」

「今期は売上高650億円(前年同期比3.7%増)、営業利益47億円(同1.6%増)の計画だが、地政学リスクによる景気減速や各種原材料の急騰などから、第1四半期の業績は厳しいものだった」

「原材料高騰に加えて輸送・エネルギーコストも上昇しており、製品の価格転嫁は急務だ。確実な原料調達と採算是正、工場の稼働率向上やコストダウンに努め計画値をやり遂げたい」

――祖業に通じるライフサイエンス事業を推進中。

「少子・高齢化の社会課題を解決するため、2018年ライフサイエンス事業に参入した。バイオコクーン研究所と池田薬草をグループ化し、健康食品の研究・販売を進めている」

「バイオコクーン研究所が開発した『カイコ冬虫夏草』は、蚕(かいこ)の蛹(さなぎ)を栄養分として育つキノコ。中国では4,000年以上前から滋養強壮の目的で食されている。昨年は、カイコ冬虫夏草に含まれる『ナトリード』という新規有用成分が、マウスの認知機能改善を示唆することを国際学術誌で発表した。今年3月末に新ブランド『天(てん)虫(ちゅう)花(か)草(そう)』を上市、通販サイト等で販売開始した。絹織物の原料となる蚕(かいこ)。当社の祖業に通じる蚕(かいこ)には古(いにしえ)の縁を感じる。現在、ヒト臨床試験を行い機能性表示食品の届出を池田薬草のスダチ果皮エキス『Sudachin』と共に進めている」

――株主還元に対する考えは?

「配当は安定かつ継続的な実施を重視し、業績に応じて配当性向も高める」

「株主優待は当社の健康食品を中心に株数に応じて贈呈している。原料は全て純国産、国内工場で製造し、安全・安心な製品をお届けしている」

――個人投資家へのメッセージをお願いします。

「常に意識しているのは株価動向、安定配当、株主優待の3点だ。株価を継続的に上げるためには業績を伸ばし企業価値を向上させる必要がある。まずは足元の逆境を乗り越え、中期計画を確実に推進していく。おかげさまで経済産業省と東京証券取引所が共に主催する『健康経営銘柄』50社の1社に3年連続で選ばれた。健康で活力ある社員一人一人が力を合わせることで株主の皆さまの期待に応えていく。ぜひともご支援を賜りたい」